麒麟がくる 第10回 「ひとりぼっちの若君」感想


闇深竹千代とノッブの指す将棋。盤面が見えず、サイドからしか映らない。緊迫感ある画でツイッターでも大いに盛り上がっていました。が。全体でみたときに、今回はそれぞれがそれぞれの役割を自覚し始める(それを示唆する)回(信長を除く)。以下、あらすじと感想です。ネタバレします。

色々変な京都編。

導入は傷心の駒ちゃんがいる京都から。
伊呂波太夫が華やかに登場した。
国や土地に縛られない存在というものとして伊呂波太夫と藝能者たちが描かれるのかどうか。単なる情報の担い手だけでとどまるのか。大好きな尾野真千子さんなので、期待してしまう。
駒ちゃんは伊呂波太夫の一座にいたことがあるという設定。軽業(かるわざ)を披露して一座の面々に褒めちぎられる。
さらに伊呂波太夫の妹分だったことが太夫本人の口から語られる。太夫は光秀が去って傷心の駒を慰める。
「じゃあもうどういう方かわかったか同然ね。持ち物に桔梗の御紋があって……」
「桔梗の御紋!」
と太夫を置いて猛ダッシュで東庵の家に戻り、小見の方からもらった扇子を眺めて嗚咽する駒。
桔梗の紋を使うのは明智家だけに留まらず美濃にはたくさんある……のだよ。土岐源氏に連なる氏族なら。桔梗紋だけで十兵衛の明智家と断定しちゃうのは早計かも。そうしないと今後の展開上都合が悪いのは重々承知。うざ絡みしてみました。すみません。
ところで伊呂波太夫は北は下総から南は?まで、全国を経巡っている旅の藝能一座。当然守護大名家の家紋はもとより在地支配層たる有力国衆の紋所まで頭に叩き込んでいるはず。桔梗紋を使う一族に明智家があることを知らないのは不自然。
もうひとつ。一座がまるで駒のことを覚えていないのは不思議。「一座にいて芸を仕込まれた」と伊呂波太夫に言わせているのだから、一緒に練習した人たちも残っているはず。太夫以外が誰も駒を覚えていないのは不自然だった。


社畜十兵衛

天文18年(1549)尾張と三河の境、安祥城を守っていた信長の異母兄織田信広が今川氏に捉えられ、松平竹千代との人質交換の話になった。交換を飲まなければ三河・駿河と尾張の戦になる。
美濃では利政が光安と十兵衛を呼びつける。光安は内心尾張と三河の小競り合いごときですぐに呼び出す利政に不満たらたら。頷く十兵衛。
が、利政は尾張ごときを救うために自分が援軍を出すのはいやだ、と、帰蝶へのご機嫌奉伺のていで尾張へ行き尾張偵察を十兵衛に命じる。
「すぐに行けぇ。ぐずぐずするなぁ」
恫喝する利政。
階段を降りつつ
「鬼め、命がいくつあっても足らぬわ。ふぅっ」
白目を剥いて息巻く光秀。
絵的には面白かったんだけど、今の所尾張と美濃は同盟しているので、命を取られる可能性は低いのよ……。


複雑な人信長

論理的である
同じ頃尾張の末盛の城では信長が信秀を相手に熱弁をふるっている。
戦下手だから兄上は捉えられたのだ。自業自得だ。竹千代はわが城に押し込め絶対に渡さぬ、捕まるまえに腹を斬るべきだった、と強硬論をぶつ息子に信広は戦の絶えない国境でよく城を守ってくれた、それを見捨てることはできない、と諭す信秀。ちょ、ほんとマイホームパパ・信秀なんですけど。
信長が憤慨して出ていくと、「ひとの上にたつ器量にやや欠けておるかのう」とのんびりつぶやくパパ。すかさずママが信勝をもちあげると、
順序を変えれば無理が生じる。良からぬことが起こる。家を嗣ぐのは信長
と言い切る。これは自分自身が弟の信光と比較されてきて切実に思っていたことらしい。

記憶力抜群
光秀が三河の味噌(仕込みはばっちりですね)をもって帰蝶に挨拶にいくと、ちょうど信長が戻ってくる。
走る猪を鉄砲で仕留めた、と大喜びで、帰蝶には途中で摘んだらしい野の花の束を渡す。
帰蝶は驚きつつもうれしそうな顔。信長もにこやか。が、庭にひざまずく光秀をみて次第に表情を変える。このセリフの間と表情の変化が絶妙でした。
「あけちぃ……?」
「美濃にも鉄砲が得意なものがいると申しました。その明智十兵衛でございます」
「……ああ、そなたが(うちの奥さんの元カレとかいう)十兵衛か」
目一杯値踏みするような目。
俺とこいつとどっちが奥さんの目によく映っとるだろうか。そや、試して奥さんの前で恥かかせちゃおっかなー♪
いきなり鉄砲を渡して産地を尋ねる信長。
見事に国内産国友鉄砲であることを当てて褒められる十兵衛。
「あがって茶でも飲んでいけ」
気安い殿様である。

「わしは一言でも話した相手は忘れない」
「浜辺でなにをしていた」
仕方なくところどころぼかしつつ話す十兵衛
「あるお方に命じられて船のお戻りをお待ちしておりました」
「あるお方、とは誰じゃ」
「わたしでござります」
帰蝶、簡単にばらす。
「ふん(楽しげな思案顔)。帰蝶に十兵衛はわしのことを何と申した」
「ようわからぬお方じゃと」
「あはははは。それはよう申した。わしも己がいかなるものかようわからぬ」
「それは難儀なことでございますな」
帰蝶の笑顔。
「難儀でたまらんのじゃ」
いいですよね。青春真っ只中。自分でも自分の感情を扱いあぐねているらしい。こうしなくてはいけない、と思いつつ、言葉や行動がついていかないのかな。
きっと帰蝶がまとめてくれて嬉しかったと思う。
帰蝶様、信長の養育係(相談役)に任命されました。
この後、十兵衛が「朝早くから。釣りがお好きなのでございますか」と至極まっとうな質問をするが、信長の明るかった表情は一転、茫洋とした顔つきになり、
「さほど好きではない」
という。その理由は母の土田御前に一度漁で捕れた大きな魚を差し上げたら大層喜んでくれたので、釣りをしては魚をさしあげるようになったが、喜んでくれたのは一度だけでそれ以後はむしろ遠ざけられたという。
この茫洋とした表情からサイコパス説が流れているようですが、わたしはノッブは写真記憶の人なのだと解釈。目の前にリアルにそのときの情景がきっちりと浮かぶのです。なので、彼は過去の体験をそのまま追体験してしまい、再度悲しみに囚われてしまうのです。
ええ。怒りの場面も同じ→辻褄合いますよね。

行動原理は「喜ばせたい」
「母上は信勝に家を継がせたかったのじゃ。それでも儂は釣りを続けた。見事な魚を釣って浜へ戻ると漁師たちが褒めてくれる。その魚を皆に分けてやると大喜びで市に売りに行く。それが楽しいのじゃ。皆が喜ぶのは楽しい」
からの「それだけじゃ」
すべてわかってあきらめているような、それでも楽しいからいいんだといっているような複雑な感情の籠もった「それだけじゃ」でした。

この「喜ばせたい」は彼の一生の行動指針・行動原理になっていく。

この後、竹千代との将棋の場面に入る。盤面を見せず、竹千代のセリフを聞きながら駒を指す信長の表情の変化だけでみせていく演出は素晴らしかった。

竹千代がやってきて将棋をねだる。話しが広忠暗殺になり繊細な内容になりそうだったので、一度は同席を許した帰蝶と光秀に「外してくれぬか」と退席を促す。
が、きーんとアラレちゃん走りをして縁側にいる十兵衛を呼び止め、「明日もう一度来い、鉄砲の話しがしたい」という。そのうえ「銭はあるか」と聞き、十兵衛がしどろもどろになっている間に「城下の宿は高い。少し渡してやれ」と帰蝶に命じる。
おめでとうございます。信長様のお気に入りに登録されました。うあああ

「まことにようわからぬお方じゃ。まるでこどものような。されどいずれこの国の主におなりになる。いささかの不安があるといえばある。何かと相談するやも知れぬ」

部屋へ戻る信長の背をみながら帰蝶は十兵衛に向かっていう。頷く十兵衛。
おめでとうございます。帰蝶さまと利政さまの御用聞きに登録されました。帰蝶さま、大変な気品ある美女ですが、全戦国大河中で最も利政さまの血を色濃く受け継いでおられる姫君のようです……。

この後、ツイッターを震撼させていた将棋の場面になります。
菊丸は天井から覗いています。
ダメだよ帰蝶。膳所の場所なんか教えちゃ……天下のチョロイン帰蝶さま。
正直、この場面の竹千代の答えはできすぎていて気持ちが悪かった。
父は母をないがしろにしたから討たれて当然。信長様は悪くない。
で、ノッブが「(人質交換を)迷っている」というと敵を知らないことには今川を討てないから自分は今川の中に入る。でも信長様が迷っていらっしゃるなら自分としてはどちらでもよい。

気持ち悪いんだなぁ、できすぎていて(二度言いました)。で、こういうふうに言ってしまうと、桶狭間合戦のとき、大高城に兵糧を運び込んで織田と戦おうとする気満々だった家康の行動と矛盾してくる。
まあ子どものことだから今川の御屋形様に可愛がってもらって姪まで嫁にいただいちゃうと逆らうこともできなかったってなるのかなぁ。

さて、タイトル「ひとりぼっちの若君」であるが、もちろん信長と竹千代を指すことは疑いない。
しかし、信長が帰蝶という賢く美しい伴侶を得て、天下へ飛躍していくのに比べ、竹千代は妻を幽閉する羽目になり、息子と妻を斬ることになっていく。明暗分かれる若君二人なのである。

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